地方で【旅館業】を起業する~移住先で旅館業を営む方法について~

仕事

地方へ移住した後、就きたい仕事としてよく挙げられるのが、観光業です。
一般的に観光業とは、旅行業、宿泊業(旅館業のほか、民泊も含む)、飲食業、アミューズメント産業、土産品産業、交通産業などの幅広い分野を包含した産業を指します。

かなり様々な業種が含まれますが、地方で観光に関わる仕事に就く場合、民泊などを含めた宿泊業、観光客などを想定した飲食業、地域で旅行ツアーを企画する旅行業などがメインとなると思います。

就職先としてであれば、それぞれを営む企業に就職することになりますが、自ら会社を立ち上げたりする場合、行政などから許認可を受ける必要があります。

今回は、観光業のうち、旅館業を営む場合に必要な手続きを解説します。

なお、旅館業に近い業種として、民泊業があります。こちらは、以下の記事で解説しています。

旅館業の定義

旅館業については「旅館業法」で定義や必要な許認可手続きが定められています。

  • 旅館業法の目的、定義

では、旅館業の業務の適正な運営を確保すること等により、旅館業の健全な発達を図るとともに、旅館業の分野における利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進し、 もつて公衆衛生及び国民生活の向上に寄与することを目的としています。

旅館業の定義としては、施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業とされています。

  • 参考:民泊との違い

民泊についての法令上の明確な定義はありませんが、宿泊料を受け人を宿泊させる営業・事業のことをいいます。
これらの営業・事業を行う場合には旅館業法に基づく「旅館業」の許可を取得、又は住宅宿泊事業法に基づく「住宅宿泊事業※」の届出をする必要があります。

※ 住宅宿泊事業 旅館業営業者以外の方が宿泊料を受け、住宅を活用して人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数が1年で180日を超えないもの。

旅館業の種別

旅館業法に定めている、旅館業に該当する施設の種別は以下のとおりです。

  •  旅館・ホテル営業(法第2条第2項)

以下に説明する「簡易宿所営業」及び「下宿営業」以外の施設、とされています。

  • 簡易宿所営業 (法第2条第3項)

客室を多数人で共用する宿泊施設のことを指します。
いわゆるカプセルホテルや山小屋など1つの客室を多数人で共用する場合がこれにあたります。

  • 下宿営業(法第2条第4項)

一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる施設のことを指します。

それぞれの施設の主な基準は以下のとおりです。

旅館・ホテル営業簡易宿所営業
客室の床面積1客室の床面積 7㎡以上
なお、寝台(ベッド)を置く場合は、9㎡以上
客室の延床面積 33㎡以上
宿泊者を10人未満とする場合は、1人当たり3.3㎡以上
玄関帳場等以下のいずれにも適合すること。
①事故の発生その他の緊急時に迅速な対応を可能とする設備を備える。
②宿泊者名簿の正確な記載、客室の鍵の適切な受け渡し及び宿泊者以外の出入り状況の確認ができる設備を備える。
玄関帳場等に係る構造設備基準はない。
(維持管理基準として、事故発生時や緊急時に対応できる体制をとることが求められる)
浴室入浴設備を有すること。
(近隣に公衆浴場がある等、入浴に支障がないと認められる場合を除く)
同左
施設名称の掲示見やすい場所に施設の名称を掲げる。同左
洗面所・便所手洗い設備には、清浄な湯水を十分に供給するとともに、石けん、ハンドソープ等を常に使用できるように備えること。同左

許可までの手続き

旅館業許可までの流れは以下のとおりです。旅館業法に基づく許可申請は、都道府県などが所管する保健所に行います。
許可申請を行う際に最も重要な点は、施設が旅館業法などの法令等に定める要件に合致しているかどうかです。例えば、その施設が旅館業法に定める施設かどうかなど、細かく定められています。

  • 事前相談

申請場所・構造設備について、図面等を持参して保健所の窓口に事前相談します。

  • 申請手続き

各種書類を揃え、保健所の窓口に提出します。必要な書類は主に以下の表のとおりです。

必要書類備考
旅館業営業許可申請書施設、構造設備の概要を記載します。
「旅館業法3条第3項各号に該当することの有無」に係る申告書禁錮以上の刑に処せられ、(中略)その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して3年を経過していない者など
見取図半径300m以内の住宅、道路、学校等が記載されたもの
配置図、各階平面図、正面図、側面図
配管図客室当にガス設備を設ける場合に必要
旅館業を営もうとする施設について土地及び建物に係る登記事項証明書
旅館業を営むために必要な権原をを有することを示す書類賃貸借契約書の写しや使用承諾書などを指しています。
(法人の場合)定款又は寄付行為の写し
(法人の場合)登記事項証明書原本の提出が必要です
  • 関係機関への相談手続き

申請書を受理された後、建築基準法や消防法など関係法令に定められた手続きを実施します。

  • 施設の検査

施設が完成したら、保健所の職員から、設備基準に適合しているかどうか等について検査を受けます。

★建築基準法に基づく検査済証の写しを用意しておき、施設検査の際に確認を受けます。

  • 許可

書類審査及び検査により基準に適合していることが確認されると、保健所より許可されます。当然のことですが、許可が出るまでは営業できません。

  • その後も継続的に営業を続ける場合

施設を大規模に改修したり、営業者が変更となったりと、当初の申請から変更となった場合、一定期間内に変更届等を提出する必要もあります。廃業の場合も同様です。

旅館業法の許可が必要な施設とは

旅館業法の許可が必要な施設は、下表の4項目の全てに該当する場合です。許可を受ける施設の状態によっては該当しない可能性もあることから、正確には保健所に確認する必要があります。

  1. 宿泊料を受けていること(法第2条)
    • 宿泊料という名目で受けている場合はもちろんのこと、宿泊料として受けていなくても、電気・水道等の維持費の名目で対価を徴収することも事実上の宿泊料と考えられるので該当します。
  2. 寝具を使用して施設を利用すること(法第2条)
    • 寝具は、宿泊者が持ち込んだ場合でも該当します。
  3. 施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると認められること
    • 宿泊者が簡易な清掃を行っていても、施設の維持管理において、営業者が行う清掃が不可欠となっている場合は、維持管理責任が、営業者にあると考えます。
  4. 宿泊者がその宿泊する部屋で生活しないことを原則として、営業しているものであること
    • 利用形態を考慮して生活の本拠があるかが判断されます。ウィークリーマンション等も旅館業の許可が必要です。

このほか、例えば客室の面積の考え方、玄関帳場・浴室に対する考え方など、細かく定めがあります。

維持管理について

旅館業法に基づく許可を得た後にも、宿泊者の衛生に必要な措置を講じなければならないなど、決まりがあります。
主な決まりごとについて掲載します。これら以外にも、自治体の条例等により細かな決まりがあります(特に水回りの決まりは細かく定められています)ので、保健所に確認した方が良いでしょう。

事項内容
管理・帳簿類宿泊者名簿を備えること など
緊急時の対応事故が発生したとき、その他の緊急時における迅速な対応が可能な体制をとること など
施設全般について①善良の風俗が害されるような文書、図画その他の物件を旅館業の施設に掲示し、又は備え付けないこと
②善良の風俗が害されるような広告物を掲示しないこと など

まとめ

インバウンドの影響もあり、観光業が活況です。民泊を含め、旅館業を始めるにはもってこいのタイミングではないでしょうか。

行政の許可が必要な業種ですので、決められた要件を満たすとともに、早めに保健所へ相談に行くことが必要でしょう。

なお、資金面を含め、行政からのサポートを受けられる可能性もありますので、管轄する自治体のホームページなどを確認してみてください。必要に応じ、行政書士などの専門家にも相談してみることをおススメします。

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