地域の活性化には、関係人口を増やすことが大切です。「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。
地域内にルーツがある人、過去に勤務や居住・滞在していた人、何らかの理由で行き来する人などのうち、地域づくりに参画する人たちを「関係人口」といいます。今後は関係人口が地域の未来を担うことでしょう。
関係人口の増加を目指すとき、スポーツの力を使うことはできないでしょうか。スポーツ合宿を誘致することで、地域外のスポーツ団体に所属する人たちと地域の交流が生まれ、関係人口を増加させることができます。
今回は、スポーツによる地域活性化のうち、スポーツ合宿を取り上げます。
合宿誘致にあたっては、運動施設を有する自治体、宿泊のための施設の管理者(民宿含む)、地域住民の協力が必要です。
ぜひスポーツを活用して地域の一体感を高め、関係人口の増加を目指してください。
スポーツ合宿とは
スポーツ合宿とは、プロ・アマ問わず、主にスポーツの練習やレクリエーションを目的に行う合宿のことです。
その裾野は広く、プロのトップチームから、社会人スポーツ、大学生の部活・サークル、さらには小学生のサッカーや野球のチームも合宿を行っています。
スポーツ合宿誘致のため自前の体育館を備える民宿などもあり、例えば越後湯沢のようなウインタースポーツが盛んな地域では、夏場にできるスポーツが少ないため、夏期シーズンにはスポーツ合宿を積極的に誘致している地域も多いです。
加えて、民間の旅行会社の中にも、スポーツ合宿を専門に扱う事業者が存在しています。
それら事業者の運営するホームページでは、宿泊地の検索から、宿泊料金、宿舎の状態、近隣の運動施設の情報など、幅広くいろいろと調べることができ、便利です。
大学生の部活・サークルでは、このようなサイトを使ったり事業者に委託するなどして、スポーツ合宿を行う場所を探している団体が多くあります。
国や自治体のスポーツ合宿支援
コロナ禍前、国は、東京2020オリ・パラ大会の気運醸成のため、世界各地から日本にやってくる海外選手団を事前キャンプなどで受け入れる地方自治体を「ホストタウン」と呼んで財政支援などを行っており、世界中の選手団と自治体とが協定を結び、事前キャンプを行う動きが活発となっていました。
参考:内閣府 ホストタウンの推進についてhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/hosttown_suisin/index.html
事前キャンプでは、地域の子どもたちなどとの交流を通じ、海外の選手団と地域とが絆を結ぶことを目指しており、1998年に開催された冬季長野五輪で行われた「一校一国運動」を参考としての取り組みでした。
残念ながら、コロナ禍により地域交流を含んで事前キャンプを行う海外選手団は殆ど無かったようですが、スポーツ合宿を活用した地域の活性化は、オリ・パラを契機に、より鮮明となりました。
さらに国は、スポーツと景観・環境・文化などの地域資源を掛け合わせ、プロチームや大学などの「スポーツ合宿・キャンプの誘致」を始めとしたスポーツによる地域の活性化を目指しており、そのような取組を行う主体を「地域スポーツコミッション」と位置づけ、資金面などで支援を行っています。
自治体においても、国の動きと連動し、スポーツによる地域活性化に取り組む組織(必ずしも地域スポーツコミッションと呼ばない場合もあり)を立ち上げる流れが加速しています。
参考:スポーツ庁 全国の地域スポーツコミッションの活動状況
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop09/list/detail/1413435.htm
このことは、自治体にとって、スポーツ合宿を単なる練習・レクリエーションではなく、地域の活性化に繋がる重要なきっかけと捉える契機となっており、地域スポーツコミッションを通じ、合宿費を補助するようなことも行われています。
また、スポーツ庁は、特に大学スポーツに着目し、その振興や地域活性化のため、一般社団法人大学スポーツ協会といった団体を作り、支援しています。
スポーツ合宿による地域活性化
これまでのスポーツ合宿は、単にスポーツ合宿を行う団体に、地域に泊まって運動施設を使ってもらうだけでしたが、それでは地域の活性化には不十分です。
スポーツ合宿のために地域外から来る人たちと地域内の人たちとで交流してもらいその後に繋がるムーブメントを作ることで、地域の経済的な活性化のみならず、地域住民が改めて自分たちの地域に自信と誇りを持つ契機となります。
また、地域の子どもたちにスポーツへの関心を高めることもでき、将来への夢を持たせることにもつながるでしょう。
加えて、スポーツ団体の多くは、1年に数回は定期的な合宿を行っています。よくある例として、夏と春に合宿を行っている団体が多い傾向です。
スポーツ合宿以外に、地域外の団体がまとまって地域内にやってくるケースは多くないと思いますので、スポーツ合宿を有効活用できれば、地域外から人を呼び込む好機となるでしょう。
では、どのような団体を誘致すれば良いでしょうか。
まずは、大学生の部活・サークルの誘致をおススメします。
大学生は小中学生の合宿に比べ、1~2週間と長期の合宿となる事例が多く、民宿などの宿泊施設にとって純粋にプラスになります。
また、プロスポーツチームや社会人チームなどは競技ごとに定められた規格(芝の状態、競技器具の仕様など様々)の会場に合致した運動競技場を好む傾向があり、新しく地域が誘致に乗り出すには資金面でハードルがあります。
他方、現役の大学生によって運営されているケースが多く、1年単位で合宿を企画する担当者が変わってしまいますので、連絡を絶やさない努力も必要です。
もし大学生に、卒業後も地域との交流を続けてもらえるようになれば、その地域のファンとして末永い関係人口を築くことができ、地域にとって多いにプラスとなることでしょう。
大学のスポーツ合宿誘致の課題
次に、スポーツ合宿を誘致する際の課題を挙げます。
- 宿泊施設の課題
スポーツ合宿は1980~1990年代に盛んになったため、合宿を受け入れる民宿等も老朽化が進んでいます。
多少古い施設もいわゆる「味」ですし、レトロな雰囲気が逆にプラスに働くこともあるでしょう。
ただ、どうしても必要な対応として、フリーWi-Fiの完備、鍵の付いた部屋、綺麗な寝具、エアコンは不可欠です。全自動の洗濯機も必要でしょう。
- 運動施設の課題
練習場所となる運動施設は必須です。合宿期間中は可能な範囲で使用できる状態にしなければなりません。
練習施設が宿泊場所から遠い場合、何らかの輸送手段も必要です。
雨天の場合に備え、屋内の運動施設か、それに代替できる施設が近くにあると、より良いのではないかと思います。
- お金の課題
合宿誘致において、宿泊費補助などがあると、より誘致しやすいでしょう。
自治体によってはスポーツ合宿そのものに補助金を支出している事例もあります。その場合、自分の自治体に所在する民宿等に泊まった延べ宿泊日数に対し補助することが多いです。
宿泊費への補助がない場合でも、例えば移動に車を使わせてくれるなど、別の方法を採ることによって資金面で補助できると誘致の可能性は広がります。
- 地域との交流の課題
もっとも重要かつ現在あまり行われていない課題です。
地域の活性化には、地域の住民と地域外からきたスポーツ団体に所属する人たちとの交流が不可欠です。例えば、練習に地域の子どもを視察させてあげる機会を作る、模擬試合も含め地域交流の場を作るなど、地域住民との直接的な交流が必須です。
そして、そのうえでスポーツ団体が帰った後も定期的な連絡のやり取りを継続することにより、地域とスポーツ団体との絆が深まり、関係人口として地域を支えてくれるようになるでしょう。
スポーツ合宿を誘致する流れ
続いて、スポーツ合宿を誘致する方法について、順番に説明します。
- 誘致する競技を検討する
地域にある運動施設がどの競技の練習に活用できるかを検討します。競技団体の国内組織(例えば、バスケットボールであれば公益財団法人日本バスケットボール協会)では、競技に使用する施設や用具の規格を規定していますので、分かる範囲で規定と合致しているかを調査しておくと、誘致の際の説明に効果的かもしれません。
もし自治体と調整できるのであれば、この段階からスポーツ団体を誘致したい旨を自治体のスポーツ担当部署か体育協会などに相談した方が、以降のトラブルが無く(少なく)なります。
- 宿泊を想定した合宿計画を検討する
運動施設を中心とし、旅館・民宿などの宿泊施設をリストアップします。
宿泊施設には、スポーツ合宿を誘致したいかどうかを確認します。また、どのくらいの人数を受け入れられるか、運動施設への移動手段を提供できるか、1泊あたりの宿泊費はどれくらいで対応できるか、などなどをリスト化した方が良いでしょう。
スポーツ団体の最大の関心は宿泊施設です。スポーツ団体の渉外担当と宿泊施設が直接やり取りすることになりますので、宿泊施設側の連絡先窓口も確認しておきましょう。
スポーツ団体にとっては、事故などがあった際の救急体制も関心事です。事故等に対応できる病院などもリスト化しましょう。
- スポーツ団体と交渉する
特定の競技に誘致対象を定めている場合、その団体に電話やメールでアポイントを取りましょう。
スポーツ団体、特に学生のスポーツ団体にとっては、地域から誘ってもらう機会はほぼなく、どこかで合宿するのであれば、せっかく誘ってもらったわけだし、という心理が働くことも多いと思います。
ぜひ連絡してみることをおススメします。
スポーツ団体の監督者とのやり取りが発生するかもしれません。丁寧なやり取りが好印象となります。
- 合宿を精緻化する
スポーツ団体と交渉し、実際の合宿計画をまとめます。
スポーツ団体から宿泊施設へのリクエスト(例えば食事など)が多くなりますので、宿泊施設とスポーツ団体とでしっかり連絡を取り合う体制を築いてもらいます。なお、通常の宿泊と同様に、しっかり宿泊契約を結ぶようにしましょう。
数日間にわたる合宿では、事故等の可能性もあります。スポーツ団体の窓口と連絡を取りながら計画を進めます。
- 地域住民との交流の場を設定する
地域の子どもや住民との交流が、関係人口構築の最重要テーマです。
交流の場所は、練習時間だけとは限りません。スポーツ団体の練習後の時間などに、特定の施設(公民館など)に来てもらい、そこで地域について、スポーツ団体についてなどを相互に紹介し合うなど、交流のきっかけを作ります。スポーツ団体の練習計画にも影響してきますので、団体側の考えも聞きながら計画を立てます。
今後につなげるため、和やかな交流の場とするシナリオを考えてください。
- 地域住民にアナウンスする
合宿の実現が現実化してきたら、住民へのアナウンスを幅広く行えるといいでしょう。
周知方法としては、チラシなどの配布・展示のほか、自治体の無線放送なども使用できると良いと思います。新聞などの媒体を使ったり、地域のマスメディアを活用する方法も有効です。
とにかく、幅広い周知により、地域住民の多くにスポーツ団体が訪れることを知ってもらうことが大切です。
- 合宿を実施する
スポーツ団体が合宿に来た初日からしっかり迎え入れる体制を作っておきましょう。歓迎の意味を込め出迎えることで、その後のスムーズかつ和やかな合宿期間につながります。
計画した地域との交流について、例えば、雨天が続いてスポーツ団体の練習日程が変わるなど、もしかしたら必ずしもスケジュール通りには進まないかもしれません。
その場合も想定し、事前に複数のスケジュールを組んでおくと安心です。臨機応変に対応しましょう。
住民との交流は、直前までしっかり広報に取り組み、多くの人に参加してもらいましょう。交流本番の盛り上がりが、今後の交流の重要なきっかけとなります。
- 合宿後も交流を継続する
スポーツ団体が地域から帰った後も、定期的にメールや手紙を送るなどし、決して交流を絶やさないようにしましょう。
特に大学生のスポーツ団体は現役の大学生が渉外窓口を務める事例が多く、毎年担当が変わってしまいます。1年間連絡を取らないだけで、その交流が途切れてしまう、といったことが一般的です。
メールや手紙、電話など、直接的なアプローチを心掛けてください。年1回と言わず、多少頻度が高い方が良いでしょう。
ぜひ長く交流を深め、学生などに地域のファンになってもらい、卒業後も地域に訪れてもらえる関係性を作りましょう。
まとめ
スポーツ合宿の誘致は、地域に今ある資源を有効活用して取り組めますので、多くのお金をかけずに関係人口を増やせる、地域活性化に有効な手段です。
その一方で、実際にスポーツ団体に合宿してもらうためには、しっかりとした計画・交渉が必要です。自治体の担当者も含め、関係者の協力が必要不可欠ともなります。地域全体で合宿を受け入れる体制を組むことができれば、誘致成功に近づくでしょう。
スポーツ合宿の有効活用は、必ず地域のためになります。ぜひ地域の活性化のため、取り組んでみてください。