移住先で旅行業を営む際に必要な事務手続きについて、解説します。なお、登録を受けないで旅行業の営業活動を行うと無登録営業となってしまいます。必ず役所に旅行業の登録を行いましょう。
旅行業の登録制度の概要については、以下の記事でまとめていますので参照してください。
旅行業 登録要件
登録に必要な要件は以下のとおりです。
- 登録拒否事由に該当しないこと
旅行業法第6条(登録の拒否)の規定により、登録拒否条項に該当する場合、登録は拒否されます。
具体的には、以下のとおりです(要約しています)
登録拒否事由の内容 | |
---|---|
① | 旅行業法の規定により旅行業・旅行業者代理業・旅行サービス手配業の登録を取り消され、その取消しの日から五年を経過していない者 |
② | 禁錮以上の刑に処せられ、又は旅行業法の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過していない者 |
③ | 暴力団員等(暴力団員又は暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者) |
④ | 申請前五年以内に旅行業務又は旅行サービス手配業務に関し不正な行為をした者 |
➄ | 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が①~④、⑦のいずれかに該当するもの |
⑥ | 心身の故障により旅行業若しくは旅行業者代理業を適正に遂行することができない者、又は破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者 |
⑦ | 法人であって、その役員のうちに➀~④、⑥のいずれかに該当するもの |
⑧ | 暴力団員等がその事業活動を支配する者 |
⑨ | 営業所ごとに旅行業務取扱管理者を確実に選任すると認められない者 |
⑩ | 旅行業を営もうとする者であって、当該事業を遂行するために必要と認められる基準に適合する財産的基礎を有しないもの |
- (法人の場合)事業の目的に旅行業である旨が記載されていること
法人で申請する場合は、定款と履歴事項全部証明書(謄本)に必ず「旅行業」又は「旅行業法に基づく旅行業」と記載しなければなりません。
- 基準資産額を確保すること
旅行者を保護するため、財産的な基礎として、下記で記載する基準資産額が、下記表以上ないといけません。
★基準資産額の算出方法(申請前直近の事業年度における確定申告書から算出します)
基準資産額=(資産の総額ー創業費その他の繰延資産ー営業権(のれんなどを指します)ー不良債権)ー負債総額ー営業保証金等
登録業務範囲 | 基準資産額 | 最低営業保証金 (供託金) | 最低弁済業務保証金分担金 ※協会に加入している場合 |
---|---|---|---|
第1種旅行業 | 3,000万円 | 7,000万円 | 1,400万円 |
第2種旅行業 | 700万円 | 1,100万円 | 220万円 |
第3種旅行業 | 300万円 | 300万円 | 60万円 |
地域限定旅行業 | 100万円 | 15万円 | 3万円 |
旅行業者代理業 | ー | 不要 | 不要 |
- 営業保証金を供託、又は弁済業務保証金分担金を納付すること
旅行業者の急な倒産などにより、旅行者が先に支払っていた旅費相当の代金を返金できないといった場合に備え、旅行業法により、旅行業者はあらかじめ資金を確保しておかなければならないことになっています。
1 営業保証金について
まず、営業保証金とは、旅行業者が供託所に供託する供託金のことを指します。仮に旅行業者が倒産した場合、旅行者は、この供託金の中から弁済を受けます。
旅行業者の種別(第●種旅行業かどうか)に応じ、保証金として供託するべき金額は決まっています。
供託所は、法務省法務局です。地方法務局や出先機関などで供託します。
参考リンク → 法務省法務局_供託
2 弁済業務保証金分担金について
次に、弁済業務保証金分担金とは、旅行業者が旅行業協会(「日本旅行業協会(JATA)」または「全国旅行業協会(ANTA)」)に入会して旅行業協会に納付するお金のことを指します。仮に旅行業者が倒産した場合、旅行者は、この納付金の中から弁済を受けます。
弁済業務保証金分担金の額も、旅行業者の種別(第●種旅行業かどうか)に応じ、金額は決まっています。
★日本旅行業協会
★全国旅行業協会
なお、旅行業協会への入会は強制ではなく任意です。営業保証金を供託すれば、旅行業協会に入会しなくても旅行業を始めることはできます。ただし、弁済業務保証金分担金のほうが営業保証金より安価であるため、協会へ入会して分担金を支払うことにメリットがあると思います。
- 旅行業務取扱管理者を選任すること
旅行業者は、
① 1営業所につき1人以上の旅行業務取扱管理者(常勤専任で就業のこと。)を選任すること。
② 海外旅行を取り扱う営業所においては、必ず総合旅行業務取扱管理者を選任すること。
③ 従業員数10人以上の営業所においては、複数の旅行業務取扱管理者を選任すること。
とされています。
旅行業務取扱管理者となるには資格が必要です。旅行業協会が実施しています。
申請に必要な書類など
観光庁や都道府県に登録を申請するに際しては、以下のとおり、様々な書類を提出する必要があります。△は、必要に応じて提出します。
番号 | 必要書類等 | 法人 | 個人 | 備考 |
---|---|---|---|---|
1 | 新規登録申請書(1) | ○ | ○ | ・申請者の住所は、法人の場合は履歴事項全部証明書(登記簿謄本)の「本店所在地」、個人の場合は、住民票に記載の「住所地」とする。 |
2 | 新規登録申請書(2) | △ | △ | ・その他の営業所(支店)がある場合に提出 |
3 | 定款(写)又は寄附行為(写) | ○ | ・最新の定款又は寄附行為の写しを提出 ・「目的」は、「旅行業」又は「旅行業法に基づく旅行業」とする。 | |
4 | 履歴事項全部証明書(登記簿謄本) | ○ | ・申請日を含めて3か月以内に発行され、変更事項について新旧の関係が記載されているもの ※管轄登記所を異動した場合は、異動前の登記所の「閉鎖事項全部証明書」が必要となる場合もある。 | |
5 | 役員の宣誓書 | ○ | ・監査役を含む全役員の宣誓書(自署したもの) | |
事業者の宣誓書 | ○ | ・自署したもの | ||
事業者の住民票 | ○ | ・3か月以内に発行されたもの(マイナンバーが記載されたものは不可) | ||
6 | 旅行業務に係る事業の計画 | ○ | ○ | |
7 | 旅行業務に係る組織の概要 | ○ | ○ | ・旅行業務を取扱う部局及び関連部局の組織図に選任した管理者を明記したもの |
8 | (法人の場合) 直近の「法人税確定申告書」及び添付書類の写し ※抜粋ではなく全頁写し | ○ | ・直近に申告した法人税の確定申告書の全ページ及び添付書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、勘定科目内訳明細書)全ページの写し ※なお、法人設立後最初の決算期を終了していない法人は、開業時の貸借対照表を提出する。 | |
(個人の場合) 財産に関する調書 | ○ | ・申請間近に作成した「調書」と預貯金の「残高証明書」 ・土地・建物を所有する場合は、その「固定資産評価証明書」(都税事務所又は市町村役場で発行)又は不動産の「鑑定評価書」も提出する。 | ||
9 | 旅行業務取扱管理者選任一覧表 | ○ | ○ | ・管理者が出向の場合は、出向契約書(写し)及び本人の同意書(写し)が必要 |
旅行業務取扱管理者の合格証又は認定証の写し | ○ | ○ | ||
定期研修修了証の写し | ○ | ○ | ・直近5年以内に旅行業務取扱管理者試験に合格した者は、提出不要 | |
履歴書 | ○ | ○ | ・自署したもの | |
宣誓書 | ○ | ○ | ・自署したもの ・個人事業者又は役員が管理者の場合は、重複提出不要 | |
10 | 営業所(その他の営業所も含む)の使用権を証する書類 | ○ | ○ | ・営業所毎に建物の登記簿謄本、賃貸借契約書の写し等 |
11 | 事故処理体制の説明書 | ○ | ○ | ・旅行業協会加入予定申請者はその体制を記入 |
12 | 標準旅行業約款 | ○ | ○ | ・約款2部 |
13 | 入会確認書又は入会承認書 | △ | △ | ・旅行業協会に入会する場合に提出する。 |
14 | 旅行業登録手数料 | ○ | ○ | ・定められた金額(例えば東京都の場合、90,000円) ※登録通知書受領時に納付する。 |
かなり提出書類が多く、役所とのやり取りにも時間がかかります。行政書士等の専門家に書類作成や提出を委任しても良いかと思います。
登録にかかる期間
申請から登録まで、以下のような流れとなります。
1 申請書の提出 → 官庁で審査を実施 → 登録決定
2 登録手数料の納付
3 営業保証金の供託 または 弁済業務保証金分担金の納付
4 供託した場合は供託済届出書 分担金を納付した場合は納付書(写し)を官庁に提出
5 営業開始
申請先の官庁にもよりますが、申請してから営業を始められるまでに概ね2か月以上かかるようです。それぞれの役所では標準的に業務を処理する目安とする期間(標準処理期間)を設けていますので、申請時に官庁に確認しても良いかと思います。
なお、すでに記載したように、登録を受ける前に旅行業の営業活動を行うと、無登録営業となってしまいます。最悪の場合、旅行業を始めることができなくなりますので、十分に注意してください。
まとめ
地方へ移住後、旅行業を営みたい方に向け、旅行業を始めるに際して必要な登録制度についてご説明しました。
ご参考にしていただければ幸いです。
なお、登録には有効期間があり、登録の日から起算して5年間とされています。この期間を満了してしまうと登録が取り消されてしまいます。引き続き旅行業を営みたい場合、有効期間が切れる2か月前までに改めて更新申請を行う必要があります。
また、登録した内容に変更があったときは、その日から30日以内に届け出なければならない、ともされています。
官庁への手続きについて、決して忘れないよう注意してください。
なお、旅行業者のため旅行者のために運送等を手配する「旅行サービス手配業」については、以下の記事で解説しています。