地方に移住して農業に携わる方法はいくつかあります。個人として就農することも可能ですが、地域に信頼を得ながら計画的に農業に携わりたいのであれば、法人を作り、農業に挑むことも良いかと思います。
今回は、法人として農業に取り組む方法について解説します。
農業経営を法人化するメリット
農業経営を法人化することにより、個人で就農する場合と比較して公的な信用度が高まることで、物件や設備を賃貸したり、融資を受けやすくなるなど、様々なメリットがあります。
また、税務上でも、法人化することにより、繰越欠損金を10年間繰越控除できるメリットもあります(個人の場合、青色申告していても3年間の控除に過ぎません)。
就農開始当初はかかる費用が大きいため、その欠損額を繰り越していくことで節税することが可能となります。
加えて、継続的に収益をあげるのであれば優秀な人材の確保が不可欠ですが、個人で農業を営む場合、募集に応じてくれる優秀な人材を確保することは難しいと言わざるを得ません。
その点、法人であれば福利厚生の面でも法的に従業員が守られるため、優秀な人材が募集に応じてくれる可能性も高まります。
そして、個人名義より法人名義の方が信用度が高いことから、販路拡大の可能性も高まります。法人名義のホームページなどで情報発信したり、インターネットサービスを活用したネット販売などで収益をあげることもできるかもしれません。
法人として農業に携わる方法
まず、農業を始めるのであれば、まずは農地を確保しなければなりません。
農地法第3条の規定により、以下のとおり、市町村の農業委員会に許可を得ることが原則となります。
法人が農地を確保するには、農地を取得するか、借りる必要があります。
継続的・計画的に農業を行う場合、農地を取得したいところですが、農地を取得するには以下の図のとおり、「農地所有適格法人」の要件を満たす必要があります。
なお、農地を借りて営農する場合、一般的な法人(株式会社など)で問題ありません。
農地所有適格法人とは
農地所有適格法人とは、農地等の権利を取得し、農業を営むことのできる法人のことを指します。
農地を取得するには、農地法第3条の規定により、市町村の農業委員会の許可を得る必要がありますが、法人の場合、農地法第2条第3項の要件を満たした法人=農業所有適格法人でなければ、耕作目的で農地を取得して農業経営を行うことができません。
農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
農地法第3条
この法律で「農地所有適格法人」とは、農事組合法人、株式会社(公開会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第五号に規定する公開会社をいう。)でないものに限る。以下同じ。)又は持分会社(同法第五百七十五条第一項に規定する持分会社をいう。以下同じ。)で、次に掲げる要件の全てを満たしているものをいう。
農地法第2条三項
農地所有適格法人の要件
農地所有適格法人は、農地法第2条第3項の規定のより、以下の要件を満たす必要があります。
要件 | 内容 |
---|---|
法人の形態 | 以下のいずれかの形態であること。 ・農業協同組合法に基づく農事組合法人 ・会社法に基づく持ち株会社(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社) ※株式会社は公開会社でないもの |
事業の要件 | 主たる事業が農業であること。 または、自ら生産した農産物を加工・販売等する関連事業であること。 ★関連事業の例 ①農畜産物の製造・加工 ②農畜産物の貯蔵、運搬、販売 ③農業生産に必要な資材の製造 ④農村滞在型余暇活動に利用される施設(農家民泊)の設置・運営等 |
議決権要件 | 農業関係者が、総議決権の過半を占めていること。農業関係者とは、以下を指します。 【農業関係者】 ・法人の行う農業に常時従事する個人 ・農地の権利を提供した個人 ・農地中間管理機構又は農地利用集積円滑化団体を通じて法人に農地を貸し付けている個人 ・基幹的な農作業を委託している個人 ・地方公共団体、農地中間管理機構、農業協同組合、農業協同組合連合会 【農業関係者以外】 特に制限なし |
役員の要件 | 役員は、以下①②のいずれかを満たすものであること。 ①役員の過半が、法人の行う農業に常時従事する構成員(原則年間150日以上)であること ②役員又は重要な使用人の1人以上が、法人の行う農業に必要な農作業に従事(原則年間60日以上)すること |
なお、上にも記載しましたが、借りるだけであれば、一般の法人でも可能です。
まとめると、以下のとおりです。
引用:農林水産省HP
法人を作る
ゼロから農地所有適格法人となるには、まずは法人設立の手続きを踏まなければなりません。
1 会社法に基づいた持ち株会社を作る
会社法に基づいて会社等を設立する手続きそのものは、一般的な法人設立手続きと同様です。その中で、農地所有適格法人の要件を満たすよう、事業内容、議決権、役員等を定めておきます。
法人設立の流れについて、以下の記事で説明していますので、ご参照ください。
2 農業協同組合法に基づく農事組合法人を作る
新規就農者で農事組合法人を作ることはあまりないと思いますので、参考として、以下のとおり図を掲載します。
引用:農林水産省HP
まとめ
法人として農業を営む方法について、主に農地所有適格法人に関する解説を中心に記載しました。
個人事業主として農業に携わるより法人化した方が、様々な面でメリットがあります。特に就農当初の資金面での苦労や、販路拡大時の信用度の面からも、法人化は有効な対策といえます。
法人設立の手続きについても、知見を有する行政書士などの専門家に任せれば簡単に済みます。ぜひ法人化し、安定的な農業経営を進めてください。