地方に移住して就農する場合、まずは農地を取得するか借り受ける必要があります。取得するには今農地を所有している方から譲り受ける(購入する)ことになりますが、見ず知らずの移住者に土地を譲ってくれる人はそうはいません。一番現実的な方法としては、借りるという選択肢になるでしょう。
農地を売買又は貸借する場合には、法律に基づく手続きが必要です。具体的には、
1.農業委員会の許可を受ける方法(農地法)
または
2.農地中間管理機構が作成する「農用地利用集積等促進計画」による方法(農地中間管理事業の推進に関する法律)があります。
このうち、1の方法については、農家さんと直接やり取りし借り受ける契約を結ぶことを前提としていますので、こちらもなかなか高いハードルがあります。すでに知り合いとなっている農家さんがいないと、難しいかもしれません。
一方、2の方法については、仲介者が農地の所有者との間に入ってくれるような仕組みになっていて、1の方法に比べ、ハードルが下がります。
さらに、令和5年度から新しい仕組みができ、新規就農者にとってより活用しやすくなりましたので、以下の解説します。
これまでの賃借と今後
農水省が進める農業政策において、これまでは、市町村が作成する計画(「農用地利用集積計画」といいます)による相対(一対一)での貸借が中心でした。
相対での貸借では農地の分散が解消されず、農地集約化=利益の出る農業の実施、にも限界がありました。
このため農水省は、令和5年度以降、農地中間管理機構(農地バンク)という組織が作成し都道府県知事が公告する「農用地利用集積等促進計画」により、農地の集約化を推進することになりました。
農地を借り受けたい場合、農地バンクが主導していくことになります。
なお、令和7年3月までは経過措置として、市町村が作成する計画(農用地利用集積計画)も引き続き利用可能となっています。
また、令和7年4月以降も、農地法3条許可による手法(農地法3条の規定による許可申請のこと)は引き続き利用可能です。
農地中間管理機構(農地バンク)とは
農地中間管理機構(農地バンク)は、農地を貸したい人から農地を借り受け、耕作を希望する人に対して、まとまりのある形で農地を貸し付ける事業を行っています。
令和5年度より、市町村が、地域の農業者等による話し合いの結果を踏まえ、誰がどの農地を利用していくのかを一筆ごとに明確にした「目標地図」というものを作成し、市町村が作成する「地域計画」に組み入れることとなりました。
農地バンクは、目標地図に位置付けられたものに農地の貸借等を行っていくこととされています。
※目標地図・・・将来の農業の在り方や、地域の農地の効率的かつ総合的な利用を図るために、誰がどの農地を利用していくのかを一筆ごとに定めた地図のこと
農地バンクで仲介してもらえる農地は、原則として10年以上借り受けることができる土地となっていますので、長期的に農地を借りたい新規就農者にとって、非常に良い制度となっています。
農地バンクを探すには
農地バンクは、各都道府県に「公社」「機構」などの名称で設置されています。例えば長野県の場合、「公益財団法人長野県農業開発公社」という名称となっています。他の都道府県にも設置されています。
農地を探している具体的な地域が決まっているのであれば、その地域の都道府県農業バンクの窓口に直接問い合わせる(またはホームページで確認する)と良いかと思います。
➡農地バンクの相談窓口はこちら
なお、具体的な実務は市町村の農業委員会が担います(申込の窓口も市町村です)ので、すでに新規就農したい市町村が決まっている場合、その市町村の農業担当窓口(農政課など)に直接相談してみても良いかと思います。
農地バンクを利用した農地の貸し借りの一般的な流れ
農地バンクを利用して農地を借りたい場合、一般的には以下の流れとなります。
- 農業バンクが地域を定めて、農地の借受け希望者を公募します。
受付や相談は、農地のある市町村です。新規就農したい市町村が決まっていれば、市町村の担当(農政課など)に相談します。
↓ - 農地を借りたい人は、あらかじめ農業バンクが定めた公募手続きに基づき応募します。応募先は市町村です。
なお、農業バンクは応募者の情報を整理して、ホームページで公表しています。
↓ - 農業バンクは、応募者の中から農地を貸し付ける候補者を選定(農地を借りたい人の中から、実際に貸し付けを受ける人を選ぶ)し、市町村等と協力してマッチング(※)を行います。
↓ - 農地バンクは、計画(農用地利用集積計画書)を作成し、農地バンクのホームページで利害関係人からの意見聴取を行った後、都道府県知事へ協議を行い、知事の同意を得ます。
(※利害関係人とは、農地の属する地域で公募登録されている借受希望者です)
↓ - 農地バンクは、計画を市町村へ提出します。
↓ - 市町村では、あらかじめ農業委員会において利用権設定等が要件を満たしているかを審査し、農業委員会の決定を経て計画の公告を行います。
↓ - 公告の完了後、農地バンクは計画に基づき農地を所有者から借受け、農地を借りたい人に貸付けます。
↓ - 農地バンクは、農地を借り受ける人から賃料を徴収します(農業バンクが農地の所有者に賃料を支払います)
※マッチングとは
市町村の農業委員会が農地を所有している人と借りたい人双方の意向を確認し、地域の農業者等の関係者の話合いを踏まえて、目標地図を策定します。
この目標地図に即して、農地バンクが、農地を所有している人と借りたい人双方の賃借の希望時期等も踏まえて、貸借の期間、借賃、借賃の支払方法等について調整を行うこととなります。
なお、農地の借り受けに関する契約は、農地バンクと行います。
農地バンクを利用する場合の借賃は、市町村の農業委員会が提供する借賃情報等を参考に、農地を所有している人と借りたい人双方の希望を農地バンクが調整して決めることとなります。
【参考】借り受ける人の要件
農業バンクによって定めは若干異なるようですが、農地を借りたい人は、以下の要件を満たす必要があります。詳しくは、農業バンクが定める公募要領を確認してください。
- 借り受ける農用地等を含むすべての農用地等を効率的に利用し耕作又は養畜の事業を行うと認められること。
- 耕作又は養畜の事業に必要な農作業に常時従事すると認められること。
法人については、業務執行役員または使用人(農業事業に関する権限及び責任を有する者)のうち1人以上が耕作又は養畜の事業に常時従事すると認められること。 - 周辺地域における農地の農業上の効率的かつ総合的な利用に支障がないと認められること。
- 地域の農業における他の農業者との適切な役割分担の下に継続的かつ安定的に農業経営を行うと認められること。
- 農業バンクから原則として○年以上借り受け、農業生産活動を行うことができること。
まとめ
移住して農地を借りたい場合、直接に農地の方と交渉するのはかなりの労力がかかります。知り合いの農家さんが貸してくれるということでなければ、農業バンクを利用し、自分の望む土地を借り受けて就農した方が良いでしょう。
農地バンクに紹介してもらった農地は、原則として10年間以上は借り受けることができる仕組みとなっており、じっくり腰を据え農業に取り組み収益を上げたいと考える新規就農の方にもってこいの制度です。
農地を借り受けたい人は、まずは農地バンクに相談することか始めましょう!